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チタン並びにチタン合金と表面処理

株式会社ヒキフネ 技術部 小林道雄


 PDF形式ファイルもございますので、ご利用下さい。  ※

1.はじめに

  最近、“チタンめっき出来ますか?”という問い合わせが時々あります。“チタンって何ですか?”と言ったことは聞かれなくなってきました。チタンにめっき出来ます?の質問が多くなっています。
以前、某メーカーのゲーム機のTVコマーシャルで外装を”チタン”バージョンといって流していました(ちなみにTi金属のめっきはできません)。チタンって、本来どのような金属なのでしょう。
 チタンは人間が使い始めてから50年位です。銅(6000年)や鉄(4000年)に比べれば遥かに最近使われ始めた金属です。
 そんな金属でありながら、現在私たちの生活に広く浸透していて、いろいろな産業や重要な役割をしています。ちなみに軽金属の仲間のアルミニウムは、100年です。
 ジェット飛行機のエンジンのファンブレード(回転翼)の全部、コンプレッサーのブレード(回転翼)などの大部分はチタン合金により作られています。 海水に対する耐食性が他の金属に比べ非常に優れているという点から、原子炉に使われる熱交換器の菅や菅板などの部品に純チタンが用いられています。 その他に海水淡水化装置、海水を取り扱う機器や装置に使われています。
 もっとも身近な例としては、眼鏡、ゴルフのヘッド、腕時計のケースなどチタンで作られています。 チタンという金属は、航空宇宙産業やエネルギー関連に使われるばかりでなく、常に肌に触れるような日常製品にも使われています。 ”軽い”こと、”強い”そして”腐食しない”といった優れた性質を有している金属です。

2.チタンの性質

2−1.チタンの物理的性質
 純チタンの物理的性質などを表に整理しました。主な点を抜き出すと次のような特徴を持ちます。
(1)  融点が1668℃と一番高い。
(2)  885℃で同素変態(固体のままで結晶構造が変わる)をする。低温側の最密六方晶(HCP)から高温側の体心立方晶(FCC)に変化する。
(3)  密度が4.51g/cm3で鉄の役半分で、アルミニウムの次に小さい。
(4)  ヤング率は鉄の役半分である。このことは同じ応力に対して鉄より2倍たわむことを意味している。
(5)  電気伝導度や熱伝導度が4金属中で一番低い。最も電気や熱を伝えにくい金属である。
(6)  磁化率が+1.6×10−6で、鉄が強磁性体であるのとは対照的に常磁性体である。

表1 チタンと他の金属との物理的性質

表1 チタンと他の金属との物理的性質

 2−2.チタンの化学的性質
 フッ酸と硫酸と塩酸の薬品にしか溶けません。アルカリや・・・には溶解し ません。純チタンは王水にも溶解しないほど耐薬品性に優れています。Ti/Pt電極のPt剥離には王水を用いています。熱王水にしてPtを溶解 しますが、純Tiは侵されません。
 特に純チタンの化学的性質の主な点を抜き出すと次のような特徴を持ちます。
(1)  硝酸のような酸化性の酸には非常に強い。高温、高濃度の硝酸でも耐食性を維持する。
(2)  食塩水のような塩化物イオンに対し、不導態皮膜が破壊されにくく、耐食性を維持できる。孔食、隙間腐食、応力腐食など局部腐食は起きにくい。
(3)  塩酸や硫酸のような還元性の酸や錯塩には侵されやすい(エッチングに用いる)。が、酸化剤(例えば、過酸化水素)を少量添加することで不導態化して耐食性を示す。
(4)  微量の水分があれば塩素ガスに耐える。
(5)  アルカリに対し万能でない。高温、高濃度の苛性ソーダや苛性カリには侵される。
(6)  流動海水中ではエロージョン(流体の衝突による一種のかもう現象)を起こしにくい。
 純チタンの化学的性特性は先に述べたように、その優れた耐食性にあります。この耐食性はアルミニウム、マグネシウムなどと同様に素材表面に生成する酸化チタンの強固な不導態皮膜によるもので す。
 特にこの不導態皮膜は、ステンレスなどの他の金属に比べ、
(1)  不導態領域が広い。チタンは標準電位E=−1.75Vで電気化学的にアルミより卑な電位を有するが、酸化性の雰囲気で酸化皮膜を生成しやすく容易に不導態化する。
この不導態膜は、1000Å(0.1μm)程度の厚さであるが、そのためチタンの上のめっきを施しても良い密着が得られない。
(2)  この不導態皮膜は強固であって、破壊されても大気中のような酸化環境下では、容易に再生される。このことは、酸素、窒素などとの親和力が強いことが上げられる。
(3)  この不導態皮膜は塩素イオンの破壊作用に対し、強い性質を有するため塩化物水溶液中でも優れた耐食性を示す。
 などの点が上げられます。
2−3.工業用純チタン
 白金電極用として用いられるチタンは、純チタン1種を選定します。これは圧延材を用いるのですが素材によっては表面の欠陥などにより白金めっきの密着が十分に得られないことがあ ります。また、電解水用として用いられるTi/Ptは0.5mmtの薄い圧延材が使われ ますのでより表面状態が良いとされる材料を用いなくてはなりません。

表2 チタン板および条の日本工業規格(JIS H4600)

表2 チタン板および条の日本工業規格(JIS H4600)

注:↓は以下を表します。

 電解水用の電極、例えば150×50×0.5tもしくは0.3tの純チタン1種と2種の板材に白金Ptを1μmおよび2μmをめっきすると純チタン2種では、周辺のPtめっきの膜厚が増すごとに剥がれを生じ ます。特に強酸性水用の電極は、厚みが1mmt以上の純チタン1種を用いる必要があります。これらは、Ptの析出応力の関係と素材表面の欠陥が大きく起因していることが考えられ ます。
 めっき関連では、めっき設備備品、例えば陽極材料を入れるアノードケース、塩酸系の電解フック、などに純チタンが用いられてい ます。
2−4.その他のチタン合金
 チタン合金は純チタンに種々の添加金属を加えて作られます。一番の目的は機械的性質の改良です。
(1)  密度を大きくせずとにかく室温付近の強度を向上させる。
(2)  高温になっても強度が低下しないチタン合金を作る。
 ということで、次に示したような表になります。合金にした場合、加える金属種によって変態する温度が変わります。変態温度を上げてα相の領域を高温度側に広げる元素を“α安定化元素“、逆に変態温度を下げ、β相の領域を低温度側に広げる元素を”β安定化元素“と呼 びます。そのどちらにも属さないものを“中性的元素“と言います。

表3 合金元素と組織・性質との関係

表3 合金元素と組織・性質との関係

3.めっきの原理
 Tiにめっきする理由(なぜめっきが必要なのか?)は、「酸化膜が強固なため半田付けができない。 」とか「硬度が低く摺動部に用いた際、かじりを生ずる。」など機能的な面での必要性があるからです。他にも「眼鏡、時計、カメラなど への装飾」を目的としたものもあります。
 めっき方法としては、表面を粗化して密着を上げる方法、素材表面を荒らさずにNi、Auを直接めっきする方法など種々の工程が見いだされてい ますが、 未だこれといった処理方法が確立されていないのが実情です。
 この理由は、
(1)  めっきの密着強度が素材表面の状態に左右される。
(2)  めっき方法に再現性がない。
 などが上げられます。とはいうものの航空機や眼鏡その他にめっきが施され目的を果たしているのも事実で す。
 現在知られているめっき工程で、チタンへのめっきの密着強度が十分に得られないのは、前述したように、チタンの素材表面に生成する不導態皮膜によることが上げられます。チタンの不導態皮膜は除去しにくく、しかも一旦活性化した面は空気および水にされられることで敏速に薄い酸化膜を再生してしまうことにあります。
 従って、密着強度が満足するようなめっきを得るには次のようなことを考慮する必要があります。
(1) 酸化皮膜が除去されたのち、めっき皮膜によって全体が一様に覆われるまで再生成されないこと。
(2) チタンの表面に対し、酸化膜が密着を阻害しないような他のものに置き換える。例えば、アルミニウム上の亜鉛置換法のような処理を施す。
(3) 酸化皮膜を適当な方法でめっき皮膜中に取り込む。
(4) チタン素地表面とめっき皮膜の間の機械的密着(樹脂めっきのように投錨効果による密着機構のような処理)を得るために、強力な化学的あるいは物理的なエッチングを行う。
 などが上げられます。
 次にめっき工程について概略を説明します。

めっき工程について概略説明

3−1.エッチング
 先にも述べたようにチタンへのめっき処理では、このエッチングと活性化が密着強度を得るための重要な役割を果たしてい ます。
 チタン金属はフッ酸、ならびに硫酸や塩酸などの還元性の酸に溶解します。フッ酸はチタンを溶解する力が強すぎるため、抑制制御するために混酸とする必要があ ります。
 インヒビターとして硝酸、氷酢酸、硫酸銅、無水クロム酸、エチレングリコールなどが用いられます。
 次の写真は、硫酸とフッ酸によるエッチングの表面状態の違いです。

写真3.硫酸エッチング 

写真4.フッ酸エッチング

写真3.硫酸エッチング  写真4.フッ酸エッチング
3−2.活性化
 種々の方法が提唱されていますが、ここでは最も用いられている方法の活性化について 説明します。
 この活性化においてチタン素材は活性化すると共にエッチングされるので表面粗さに関して十分に考慮する必要があります。
(1) 高濃度硫酸処理
 酸化皮膜を除いた後、 90〜110℃、65%〜90%H2SO4に約1〜2分浸せきする。この時チタンの酸化皮膜が完全に破壊され水素化Tiの皮膜が生成される。浴温が高く反応が早いため十分な確認と調整が必要になる。また、ここで生成した水素化Ti膜は熱および酸に弱いためチタン素材を浴から引き上げた際、直ちに水洗する必要がある。その後、任意のめっきを施すことができる。
(2) 高濃度塩酸処理
 塩酸は沸騰状態の溶解度が大きくなる。Tiの溶解状態はフッ酸が白色状に溶解するのに比べ塩酸系では黒色スマット状にエッチングされる。
(3) フッ酸とシュウ酸の混酸処理
 密着強度は(1)の高濃度硫酸処理に比べ多少劣るが、比較的エッチングされずに下地の表面状態を維持し、処理方法も簡単である。表面が滑らかである。
混酸の組成はフッ化ナトリウム5g/L+シュウ酸5g/Lの溶液に室温にて1分〜10分浸せきする。
(4) 白金めっき
 ASTMに記載されている方法はNo1、2および3のプロセスがある。ここではプロセスNo1について述べる。Na2CrO7・H2O・HFの溶液でエッチングする代わりに熱濃塩酸(温度95℃)にて5分間エッチングし、水洗後直ちに白金めっきを施す。塩化白金酸(H2PtCl6)系のめっき液にてストライクめっきを行う。

 

写真5.熱高濃度硫酸処理 写真6.左写真後にPt1.5μmめっき
写真5.熱高濃度硫酸処理 写真6.左写真後にPt1.5μmめっき
3−3.熱処理
 熱処理によってチタンとめっき皮膜との間の介在皮膜(水素化Ti皮膜)を拡散もしくは放出させ且つ、金属間での熱拡散が生ずることで密着強度が向上 します。
写真7.Ti/Ni熱処理前  写真8.Ti/Ni300℃×3Hr熱処理
写真7.Ti/Ni熱処理前  写真8.Ti/Ni300℃×3Hr熱処理
3−4.めっき方法
 種々の方法が上げられますが、個別に記載した各処理の組み合わせにより純チタンならびにチタン合金にめっきができ ます。ただし、前処理で如何に酸化皮膜を除去し、且つ再生成を防止つつめっき入るところまで持ち込んだわけで すから、めっき初期にも酸化は避けなくてはなりません。
 特に酸性のNiめっきやPt(強酸性)めっきは、溶存酸素による酸化が著く、よって、めっき浴注に窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込み酸素を除去する必要があ ります。特にめっきスタート時には吹き込む量を多くし、酸化を防ぎます。
また、目的とするめっき仕様で十分な密着が得られない場合には、下地のめっきを施し熱処理後に再度めっきを施すなどの工夫が必要です。
4.まとめ
 チタンを含む軽金属と称されるアルミニウムならびにマグネシウムは、今後大いなる発展が望まれ ます。その中でチタン材は加工性の悪さが仇となり、めっき素材の対象となりにくかった時期もあり、その中でも特殊な金属として見られてきてい ました。
 現在では、種々の合金組成ならびに加工技術の進歩に伴い、種々の用途が出てきています。機能・装飾と種々に渡り、めっき技術が用いられることを強く望むものであ ります。
5.参考文献
1) http://www.mozidas.co.jp/G/history_titan.html
2) http://www.sumikin.co.jp/docom/kousan/titan/mudoku.html
3) 金属時評・編集部;新金属データブック
4) 表面技術総覧
5) 永瀬、小森;工業レアメタル、85(1984)
6) 西村;金属表面技術;31,625(1981)
7) 鈴木・森口;チタンのおはなし,日本規格協会,(1995)
8) 草道・村上・木村和泉他;金属チタンとその応用、日刊工業新聞社、(1983)
9) 小林道雄 他1名、実務表面技術、35,6(1988)

余談:その1:チタンの歴史

 この地球にチタン(チタンという名前が付けられたのは1795年で、第一発見者によってではありません)という金属の存在を初めて発見したのは1791年、イギリスのクレーガーです。彼は海岸の砂から採取した砂鉄の中に鉄以外の酸化物を見つけました。この金属は“メナカメイト”と命名されました。その4年後の1795年、ドイツの化学者クロプロート氏がルチル鉱石の大部分がこれまでに知られていない全く新しいものであることを発見し、この金属をギリシャ神話のタイタン(TITANEN:巨人)にちなんでチタン(TITAN)と名付けました。
 後に先に述べた“メナカメイト”と“チタン”は同一の物質であることが確認されました。その後、この酸化物から金属チタンを抽出する試みがなされましたが、やっと実験的に成功したのは、何と1910年、発見から120年以上の時間を要したのです。
 さらに工業的に金属チタンを製造することに成功したのは、アメリカのクロール博士による製造方を発見してからであり、実用化に至ったのは実に第一発見より150年後の事になります。

余談:その2:チタンは人にやさしい材料

 チタン合金は、無毒という素晴らしい一面を持っています。最近問題になっている、Niアレルギーも心配ありません。チタンは人体との適合性がよく、眼鏡、時計をはじめ人口骨や義歯などに幅広く使われています。チタンは人にやさしい材料なのです。

余談:その3:陽極酸化(電解発色)

 チタンは加熱または陽極酸化処理を行なうことにより、表面に薄い酸化皮膜を生成 します。
 この皮膜は、加熱温度×時間、あるいは化成電圧をコントロールすることで厚さを変化させることができます。本来透明なこの皮膜は、ある厚み範囲にあると金属表面からの反射光と 、酸化皮膜表面の反射光とが干渉を起こして、いわゆる干渉光(シャボン玉や水面上の油膜と同様の色)を発色します。

※この記事は2002年8月時点のものです。


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